米澤穂信の小説『可燃物』を読みました。
米澤穂信は私の好き作家ランキングの上位に入るのですが、常に新刊追ってるわけではないので、新しい作品が出ても気づいてないことがありまして…。
『可燃物』は2023年7月末発売だったのですが、全く気付かず…。
8月半ばになってから他の小説に入っていた新刊案内の広告ちらしで気付きました。
具体的なネタバレに繋がることは書きませんが、何がおもしろかったのか、どういった部分に関心を持ったか…といった文章の中で人によってはネタバレだと感じる可能性があります。小説(特にミステリ)の感想記事をお読みになる際はお気を付けください。
どんな小説?
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。
群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。
群馬県警利根警察署に入った遭難の一報。現場となったスキー場に捜査員が赴くと、そこには頸動脈を刺され失血死した男性の遺体があった。犯人は一緒に遭難していた男とほぼ特定できるが、凶器が見つからない。その場所は崖の下で、しかも二人の回りの雪は踏み荒らされていず、凶器を処分することは不可能だった。犯人は何を使って〝刺殺〟したのか?(「崖の下」)
榛名山麓の〈きすげ回廊〉で右上腕が発見されたことを皮切りに明らかになったばらばら遺体遺棄事件。単に遺体を隠すためなら、遊歩道から見える位置に右上腕を捨てるはずはない。なぜ、犯人は死体を切り刻んだのか? (「命の恩」)
太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か? なぜ放火は止まったのか? 犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが……(「可燃物」)
連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。
(Amazonより引用)
(▲帯なしの書影はこちら)
ミステリー小説で「警察もの」ですね。短編集です。
米澤さんはミステリ作家で「探偵もの」はたくさん書いているのですが、「警察もの」は書いていらっしゃらなかったんですよね。これが初なのかな。
主人公がめちゃくちゃドライな「葛警部(かつらけいぶ)」なので、キャラクターものとして読もうとすると、「なんだこの人…???」ってなりますね。
物語に至るまでの主人公の生い立ちや経歴がめちゃくちゃ気になるんですが、そういった点に焦点を当てるストーリーではないので、まぁいいのかなって思います。
ラノベ出身の作家さんなのでその辺りの作品しかお読みでない場合に驚くかもしれませんが、文藝春秋「オール讀物」掲載作品で読者層が中高年主体ですからそこに合わせていらっしゃるのかなぁと思います。
全体的なミステリーの解決はそっけないけど細かくてエレガントって感じですね。
ハードボイルド小説によくある、武骨な雰囲気はそんなにないですね。
【収録作は下記】
「崖の下」初出:オール讀物2020年7月号
「ねむけ」初出:オール讀物2021年2月号
「命の恩」初出:オール讀物2023年2月号
「可燃物」初出:オール讀物2021年7月号
「本物か」初出:オール讀物2023年7月号
良かった点
短編集で全体的におとなしい雰囲気ではあるのですが、けっこうロジックしっかりめでパズルっぽい作品が多かったですね。
「犯人捜し」はそんなに主題にならず、動機や凶器に関する謎がメインになるものが多かったですね。
全部良かった!
短編集であれこれ入っていると、読んだ後で「あの話ってどんな感じだったっけ?」って思い出せないこともあるのですが、これは全てが印象的すぎて全部しっかり覚えてます!
どの話もそれぞれしっかり「特徴」がある。かなり傾向が違うのであえて全部違うテイストになるようにしているのかなって思いますが。
全体的に「ミステリ好きな人」向きです。(ミステリなのでミステリ好きな人向けではあるのですが、そんなに興味がない人でも読みやすいミステリ作品もあると思うので…)
「崖の下」の凶器は本当に本当に…!他の作品でこういうのあったかな?!って…すごくよかったし
「ねむけ」はマーダーミステリ―ゲームの「狂人」枠に通ずるものがあって
「命の恩」の動機はね、刑事ものらしい感じがあってよかったし
「可燃物」のストーリーは社会派消防士モノっぽいおもしろさもあるのに結末はかわいそうだし
「本物か」は、ひどい動機や展開でとてもいい!
どんな作品と似てる?
本人の作品だと
『犬はどこだ』『ボトルネック』のシニカルな雰囲気が近いかな。
『氷菓』の古典部シリーズや、小市民シリーズ(限定シリーズ)がお好きな人はびっくりするかも?
また直木賞受賞作の『黒牢城』とかは、現代物と時代物との違いはありますが雰囲気は近く感じるかも?
現代ものだと『Iの悲劇』が似た雰囲気かな。
推理の道筋は違うのだけれども『遠回りする雛』収録の「心あたりのある者は」の殺人が起きるVerっぽく感じました。
他作家の作品だと
『青空の卵』等、坂木司の引きこもり探偵シリーズがちょっと近いかも?
雰囲気がさらっとしているのに、犯人が結構「ひどい」という点で。
米澤穂信作品って「やむに已まれず」って犯人や犯行動機よりも意識的か無意識かは置いておいて本質的には悪意がある……ってのが多い気がするので、そういう点ではね。
(あちらはキャラクター強めでラノベっぽい雰囲気もあるのでそういった点は別物なのですが)
今作『可燃物』は全体的な雰囲気がハードボイルド刑事もの寄りなので、その点では中高年層の男性に人気のある刑事物小説全般と近い感じがしますね。
他に好きな作品と比較してみる!
好みがわかると、どう感じるのか…の参考になると思いますので、今現在読むことができる米澤穂信作品の特に好みの作品についてチェックをつけていきますね。
全部好きなのですが特に好きな作品に「◎」をつけてみました。
(シリーズごとに固めて並んでいます)
◎『氷菓』
◎『愚者のエンドロール』
◎『クドリャフカの順番』
◎『遠回りする雛』
『ふたりの距離の概算』
『いまさら翼といわれても』
『春季限定いちごタルト事件』
『夏季限定トロピカルパフェ事件』
『秋季限定栗きんとん事件』
◎『巴里マカロンの謎』
◎『王とサーカス』
『真実の10メートル手前』
◎『本と鍵の季節』
◎『栞と嘘の季節』
◎『さよなら妖精』
◎『犬はどこだ』
『ボトルネック』
『インシテミル』
『儚い羊たちの祝宴』
『追走五断章』
◎『折れた竜骨』
『リカーシブル』
『満願』
『Iの悲劇』
『黒牢城』
◎『可燃物』
結論?
全体的に、おもしろかった!好きな感じ!
私は米澤穂信作品だと『さよなら妖精』『王とサーカス』『本と鍵の季節』『犬はどこだ』『折れた竜骨』が特に好きです。
古典部シリーズや小市民シリーズと比べると、これらはドライな書き味の作品で今作『可燃物』と近い感じがします。
他の作品もまた読みたいのでどんどん続編書いてほしいです…!
…『折れた竜骨』すごかったんだよ。魔術の存在する世界で謎ときするの…。ズルもチートもなくてちゃんとミステリなんだ…。